【注目の国連情報】気候危機がジェンダーに基づく暴力の急増に拍車、国連調査

ー2025.5.13ー
最近の国連活動の中で、今回は国連ニュースセンターが配信している「UN News」の中から、以下の記事についてそのポイントをご紹介します。

気候危機がジェンダーに基づく暴力の急増に拍車、国連調査 (2025年4月22日)

緊急に対策を講じなければ、今世紀末には、親密なパートナーからの暴力の10件に1件に気候変動が関係している可能性がある。

これは国連スポットライト・イニシアチブによる新たな報告書からの警告であり、気候変動が社会的、経済的ストレスを強め、女性や女児に対する暴力の増加につながっていると指摘されている。こうした影響は、女性がすでに根強い不平等に直面し暴行を受けやすい脆弱なコミュニティに、最も深刻な打撃を与える。
研究によると、地球の気温が1℃上昇するごとに、親密なパートナーによる暴力(IPV)が4.7%増加し、気温上昇が2℃のシナリオでは、2090年までに毎年4,000万人以上の女性と女児がIPVを経験する可能性があるとされている。3.5℃のシナリオでは、その数は2倍以上に増加する。

ジェンダーに基づく暴力は「影のパンデミック」
・・ジェンダーに基づく暴力は、すでに世界的な流行になっている、と報告書は指摘している。10億人以上の女性、少なくとも女性の3人に1人が、生涯のうちに身体的、性的、心理的虐待を経験している。被害者のうち、警察や医療サービスに正式な被害届を提出するのはわずか7%程度であるため、これらの数字は過小評価されている可能性が高い。
・報告書では、気候災害の後に暴力が増加するパターンを特定している。2023年だけでも、9,310万人が気象関連の災害や地震の影響を受け、推定4億2,300万人の女性が親密なパートナーからの暴力を経験した。そして気候変動によるショックがより頻繁かつ深刻になるにつれ、暴力のリスクは劇的に高まると予測されている。
・例えば、報告書で取り上げられたある研究では、熱波時に女性殺害が28%増加することが判明した。その他の影響としては、特に洪水、干ばつ、砂漠化による避難後に、児童婚、人身売買、性的搾取の割合が上昇している。

疎外されたコミュニティの女性と女児は、より一層の脆弱性に直面
・この危機の負担は均等に分散されているわけではない。零細農家や都市部の非公式な居住地に住む人々など、貧困の中で暮らす女性と女児は、より一層の脆弱性に直面している。
・先住民、障害者、高齢者、LGBTQ+コミュニティに属する女性も、避難所、保護等へのアクセスが制限されており、重複したリスクに直面している。
・サハラ以南のアフリカでは、気温が4℃上昇した場合、親密なパートナーからの暴力を経験した女性が、2015年の4800万人から、2060年には1億4000万人へと3倍近くに増加する可能性があると予測されている。しかし、温暖化を1.5℃に抑えるシナリオでは、被害を受ける女性の割合は、2015年の24%から2060年の14%に減少する可能性がある。

気候変動政策のあらゆるレベルに、ジェンダーに基づく暴力(GBV)の防止を
・この問題の緊急性にもかかわらず、気候関連の開発援助のうち、ジェンダー平等を主眼とするものはわずか0.04%に過ぎない。このギャップは「ジェンダーに基づく暴力(GBV)が、気候変動に対する回復力と正義をいかに左右するか」を認識していない、という重大な欠陥を示していると報告書は主張している。
・本イニシアティブでは、地域戦略から国際的な資金調達メカニズムに至るまで、気候変動政策のあらゆるレベルに、ジェンダーに基づく暴力(GBV)の防止を組み込むことを求めている。
・ハイチ、バヌアツ、リベリア、モザンビークなどの国の事例は、暴力に対処しながら同時に気候への耐性を構築するプログラムをどのように設計できるかを示している。これらには、以前は女性性器切除を行っていた助産婦を再教育し、気候変動に配慮した農業で代替生計を立てられるようにすること、災害対応にジェンダーに基づく暴力(GBV)防止策が含まれるようにすること、被災地での移動診療所を支援することなどが含まれる。
・報告書は、効果的な気候変動対策は、安全性、公平性、女性と女児のリーダーシップを優先させなければならないと強調している。そして、女性と女児に対する暴力に終止符を打つことは人権上の必須事項であるだけでなく、公正で持続可能な、気候変動に強い未来を実現するために不可欠であると結論づけている。

<国連支援財団担当者より> 
今回の国連イニシアチブによる報告書は、気候変動の影響が単なる環境問題にとどまらず、深刻な人権問題とも直結していることを改めて突きつけています。気温上昇が親密なパートナーからの暴力の増加と関連しているという指摘には衝撃を受けました。また、ジェンダーに基づく暴力(GBV)はすでに世界的な流行、いわば“影のパンデミック”になっているという現状に強い危機感を覚えました。とりわけ貧困の中で暮らす女性と女児は、避難所や保護等へのアクセスが制限され、重複したリスクに直面しているといいます。わが国においても、災害時における避難所等での性被害や、女性と女児へのDV(家庭内暴力)・虐待等の増加が報告されています。持続可能な未来を築くには、気候とジェンダーの双方に目を向ける包括的なアプローチが不可欠です。私たち一人ひとりがこの現実に向き合い、連帯することが求められています。